平成26年9月17日付朝日新聞に掲載されました
『子を失う悲しみ、二度と 「事故から命守る」遺族ら活動』


慎之介君の写真に語りかける母親の優子さん=東京都小金井市の自宅


幼稚園の行事中の事故で亡くなった吉川慎之介君=吉川優子さん提供

 
事件や事故、災害から子どもを守ろうと、我が子を亡くした親たちが再発防止に取り組んでいる。悲劇が繰り返される現状を変えたいという。多くの小さな命も犠牲となった東日本大震災から3年半。文部科学省の審議会も16日、命を守る教育を強化する方針を示した。
 

再発防止へ検証 「学会」立ち上げ議論

学校での事故などで子どもを亡くした親や専門家らでつくる「子ども安全学会」の初めての大会が7日、東京都内であった。再発防止策を考えようと中心になって立ち上げたのは東京都小金井市の吉川豊さん(44)、優子さん(43)夫婦。2年前に長男慎之介君(当時5)を水の事故で亡くした。7日は慎之介君の誕生日、小学2年生になっているはずだった。

「出張に行ってきます」。2012年7月、父親の口ぶりをまねた慎之介君は、通っていた私立幼稚園の約30人の園児らと初めての「お泊まり保育」に出かけた。
ひょうきんで元気な男の子。ピアノを習い始めたばかりだった。
川遊び中に水かさが増し、慎之介君はほかの園児らと一緒に流された。
約150メートル下流で見つかったが、助からなかった。園側は子どもに浮輪やライフジャケットを着けさせていなかった。

「現場の危機管理意識が薄い中で問題が深刻化している」。吉川さん夫婦の憤りは消えない。だが一方で、「慎之介のような事故を繰り返さず、予防につなげたい」と願う。

昨年6月に「学校安全管理と再発防止を考える会」を立ち上げ、専門家を呼んで勉強会を始めたのが学会の前身。同じように悲しい思いをした遺族らと知り合い、再発防止を考えるようになったという。

「遺族がここまでしないとならないのかという思いはあったが、事故が社会に生かされることで私自身も助けられた」。愛知県碧南市の栗並(くりなみ)えみさん(35)は、10年に、1歳だった長男寛也ちゃんを亡くした。保育所で食べていたカステラを、のどに詰まらせた。

事故のとき、保育所は「保育士が横にいた」という報告書をまとめた。だが、栗並さんが原因究明のため何度も保育所に足を運ぶと、実際は近くにいなかったことを認めたという。その後、国や県に検証の重要性を繰り返し訴えた。
その結果、保育施設での事故防止策を考える政府の有識者会議が発足し、今月9日に初会合があった。「事故後にまともな調査がされていない。検証し、再発防止につなげるべきだ」と栗並さんは訴えた。
 

安全教育強化へ 悲劇、あとを絶たず

あとをたたない子どもの死亡事故をなくそうと、文部科学相の諮問機関・中央教育審議会は16日、子どもが事件や事故、災害から身を守るための教育を強化する方針を示した。
日常生活に潜む様々な危険を予測することで、安全に行動できるようにしたいという。例えば保健体育ではどんな状況だと交通事故に遭い、犯罪に巻き込まれやすいかを考えさせ、社会科では地域の特性に応じた防災対策を教える。
こうした現行の安全教育を強化して体系化し、2020年度までに順次導入する新学習指導要領に反映する考えだ。

日本スポーツ振興センターによると、保育園や幼稚園、小中高校での死亡事故で災害共済給付金が支払われたのは、05年度が82件。その後も70件前後が続く。

東日本大震災で宮城県石巻市で多くの子どもが亡くなった大川小の惨事などを機に、子どもの命を守る教育に注目が集まったが、12年度も48件あった。プールでの水死といった同じような事例が繰り返されているのが特徴だ。

文科省は事件や事故が起きた際の学校の対応についても指針を作成する方針で、5月に有識者会議を立ち上げて議論している。01年の大阪教育大付属池田小学校(大阪府池田市)での殺傷事件の遺族も参加し、学校がどのような事後対応をしてきたか調査している。(芳垣文子、高浜行人)
 

国民全体が関心を

<大川小の検証委員会で委員長を務めた室崎益輝・神戸大名誉教授の話>
子どもを亡くした親は強い悲しみのため、表だった活動にまで踏み出せないケースも多い。その中で、教員や保育士を批判するだけでなく、子どもの環境や学校が良くなるよう働きかけることは正しい方向で、喜ばしい。東日本大震災であれだけの悲劇があり、遺族の意識の高まりにつながっている可能性もある。ただ、こうした取り組みが遺族だけにとどまってはならない。国民全体が関心をもち、再発防止に向けて知恵を出し合うことが重要だ。
 

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